書評:いま世界の哲学者が考えていること

 本が目に入ったので前からやりたかった書評というものをやってみたいと思う。半年くらい前に買った「いま世界の哲学者が考えていること」の書評。

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こういうのは3つより多くても3つより少なくても3つにして書くと分かりやすいらしいのでそうする。

  • 序章と1章はすばらしい。刺さった
  • 一つ一つのトピックは物足りない
  • 入り口としてはいいかも。とくに読むべき本のガイドや主要な論者の紹介は〇

 まずは序章について。以前戸田山和久の「哲学入門」

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を読んでから現代的な哲学が試みている問題群というのが気になっていた。デネットとかドレツキとかいう人がなんか面白そうなことを言ってた気がするけど細かいことは忘れた。多分自分は自然主義的な世界観を気に入ったのだろう。

 まぁとにかくウィトゲンシュタインとかアーレントとかカントが言ってることももちろん気になるけど同時代の哲学者は何を問題としてとらえようとしていてどのような立場が入り混じっているのか、とかそういうのが気になっていたので序章と1章の現代の哲学を概観する構成は気に入った。目次に並んでるフレーズを列挙すると「ポストモダン以降哲学はどこへ向かうのか」「ポストモダン以後の3つの潮流」「メディア・技術論的転回とは何か」「実在論的転回とはなにか」「自然主義転回とは何か」という感じである。現代の哲学の流れを簡潔に説明してもらえて非常にテンションが上がった。個人的には、哲学の流れは高校倫理の最後の項目で「ウィトゲンシュタインとかでてきたあとに戦後にサイードとか~フーコーとか~デリダとか~メルロポンティとか~サルトルとか~ラカンとかでてきました~」という認識で終わっていたので現在へと至る潮流というのがさっぱりわからなかったところをこの本で補うことができた。1960年ごろまでの傾向とそこから展開したポストモダン思想の概観、そのあとに現代哲学を理解するための「3つの転回」(自然主義的転回、メディア技術論的転回、実在論的転回)が示唆される。この流れがわかりやすかった。

 1章が興味を惹く内容だっただけに2章以降は少し微妙だったかもしれないと個人的には思う。知ってる内容に少し化粧をしただけの内容(チューリングテスト中国語の部屋、フレーム問題など)か、「お、これは聞いたことがない内容なので詳しく知りたいぞ」と思ってもさっさと次の内容に移動してしまうのでもどかしく感じてしまった。たとえばクローン人間に関する議論でハンナアレントの「出生性」という概念を紹介し、クローン人間に対する批判理論を構築しようとするが、ほとんどその概念を紹介しただけで終わっているように見える。もう少し突っ込んで擁護、批判の議論をまとめてほしかったという思いがある。

 そのような意図が筆者にあったのかなかったのか知らないが「本書をより理解するためのブックガイド」や「哲学者紹介」などのミニコーナーが異常に充実してるように見える。そのため、気になるトピックに出会ったときには次の一歩が踏み出しやすいのではないかと思い、良書だなぁと感じた。